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ICONIC PRODUCT ♯03 ただひたすらに極地を目指して

ICONIC PRODUCT ♯03 ただひたすらに極地を目指して

本連載「ICONIC PRODUCT」では、ブランドを体現する銘品たちをご紹介します。クレッタルムーセンが誇るエクスペディションモデル「ブレードジャケット 2.0」。極地探検に振り切った驚くべきディティールの数々は、クレッタルムーセンの目指す、真摯な物作りの真骨頂とも言えます。

過剰ともいえるディティールが数多く存在するのもクレッタルムーセンの特徴のひとつです。これは決して奇をてらった行為というわけではなく、設定しているフィールドの問題です。この「ブレードジャケット 2.0」の使用想定シーンは、“極地での犬ぞり探検”。スウェーデンの先住民であるサーミの移動手段が犬ぞりだったということもあり、クレッタルムーセンのエクスペディションシリーズは、エベレストではなく、北の極地に向けて作られます。実はこの“エクスペディション特化”がクレッタルムーセンの真髄であり、ブランドとしてのすべての思想が詰まったアイテムです。

自分で歩くわけではない犬ぞり探検という特殊な環境下では、特化したディティールが必要になります。無人地帯を何日もかけて移動していくわけですから、ギアの破損は命に直結します。軽量化とは真逆を行く特徴的な大きなフラップは、万が一ジッパーが破損した際に必須。それだけでなく、胸元にトグルを付けることで、フラップのベルクロまでもが壊れた時にもフロントを閉じられるようになっています。

袖の絞りの部分は通常だったらベルクロで済ませてしまうところですが、凍結した際にもしっかり機能するように、金属パーツを使ったベルトで調整する作りになっています。しかも小さなコンパス付き。「もしもメインのコンパスが壊れたら……」ということですね。

日本で暮らしていたら、ちょっと偏執的なまでのこだわりに感じるかもしれませんが、こうした過剰とも言えるバックアップ機能を備えてこそ、極地に耐えるギアだというのがクレッタルムーセンの考え方です。

“万が一”が口癖の心配性のお爺ちゃんのような、さまざまなバックアップ機能だけではありません。極地での行動に特化した特殊すぎるディティールもあります。超低温の状況下ですから、なにを置いても防ぎたいのが風の影響。その最たるものが、またもや過度なまでの首周りの保護です。これでもかというくらいに生地を重ねた襟が付いていて、フードを被ってしまえば、露出するのは目の周りだけ。

一方で、サイドジッパーを上げると、背面は全体がフルオープンできるようになっています。犬ぞりに乗る上でこの巨大すぎるベンチレーションシステムは、不要に思うかも知れません。ですが犬ぞり旅では、時には横について長時間歩いたり、犬と一緒になってソリを押して乱氷帯(海氷がぶつかりあってできる山)を乗り越えるなど、ハードに体を動かすシーンも出てきます。そうした際に、前方からの風は防ぎつつ、後ろから熱を排出することができるこのシステムは必須。極地で汗が冷えてしまうことは、氷り付くことと同義です。あくまでも極地に最適化したこのシステムですが、激しくハイクアップするようなバックカントリースキーの時なども活躍してくれます。

エクスペディションシリーズの過剰なまでのディティールの数々、いかがだったでしょう。日本ではオーバースペック? 間違いありません。それどころか北欧に住む人々にとっても多くの場合は不要でしょう。ですが、クレッタルムーセンが、エクスペディションシリーズで視野に入れているのはあくまでも“極地”のみ。そこには北欧ブランドとしてのサーミへのリスペクトと、極地探検への真摯さが込められています。

重量や耐水圧などの数値で性能を決定するのではなく、数値には現れないこうしたディティールにこだわることこそが、クレッタルムーセンのエクスペディションへの取り組み方なのです。

※ご購入に関しては、Contact ページよりお問い合わせください。

Staff Credit

Interview: Takashi Sakurai

Photo: Hinako Kimoto