北海道を拠点にフィールド活動を行うアンバサダーの下村雄太と島崎貴裕がクレッタルムーセンにまつわる人たちを訪ね、彼らが大切にしているフィールドや活動、自然との向き合い方を紹介していきます。
今回訪ねたのは、北海道・ニセコ。国内有数のスノーリゾートで知られるニセコエリアで長年にわたりニセコの魅力を多くの人に届けるのアウトドアショップ TOYRU(トイル)で働く渡辺悠花(わたなべ ゆうか)さん。
テレマークスキーを楽しみ、山で出会った景色や日々の暮らしを写真に残すことを大切にしている。東京を離れ、山の近くで暮らすことを選んだ彼女にとって、自然は特別な目的地ではなく、日常の一部だ。
クレッタルムーセンユーザーでもある悠花さんに、テレマークスキーとの出会いや、自然ととも に暮らすことの豊かさ、そしてこれから描く未来について伺いました。
山と暮らし、その先にある表現。
東京で育った悠花さん。
幼い頃、山は日常のすぐそばにあるものではなかった。父親に連れられ、 夏休みには北アルプスへ。初めて山を訪れた頃の日記が、今も手元に残っ ているという。
一方で、学生時代はバスケットボールやラクロスに打ち込み、大学卒業ま でスポーツ中心の生活を送っていた。
自然との関わりが再び深まったのは、大学卒業後のことだった。自分が本当にやりたいことがわからなくなった時期。個人で店を営み、自分の手で何かをつくり出す人たち に惹かれ、コーヒーショップ(サーフィンを嗜む店主が経営するカフェや、無農薬で野菜を栽培する農家など で働き 始めた。そこでの出会いがパタゴニアで働く事に繋がった。
パタゴニアで勤務するうちに、幼い頃の山の記憶が少しずつ蘇ってくる。も う一度、山へ行きたい。
そのきっかけのひとつになったのが、目白のパタゴニア(カラファテ)で開催 されていたテレマークスキー の講習会だった。 テレマークスキーという、当時はよく知らなかった世界。わからないからこそ面白く、休みのたびに山へ通 うようになった。
やがて、山の近くでひと冬を過ごしてみたいと思うようになる。
「とにかく、自分のホームから飛び出してみたかったんです」
2019~2020年(2021年の冬)頃、悠花さんは北海道へ渡る。最初はひと冬だけのつもりだった。 けれど、ニセコでの暮らしは想像以上に新鮮だった。
自然が、日常になる。
現在はニセコのトイルで働きながら、山に近い生活を送っている。 北海道で暮らすようになって、悠花さんが特別に感じているのが、季節の移り変わりを生活の中で味わえることだ。
旬の食材を食べること。雪が降り、山の景色が変わること。日ごとに色づ いていく紅葉。
以前は、自然を楽しむために目的地へ出かけ、また日常へ戻っていた。今 は違う。自然が暮らしのすぐそば にあり、特別な目的がなくても、その変化を感じることができる。
「一度この暮らしを知ってしまったら、もうやめられないなって思います」
自然が特別な体験ではなく、日々の暮らしに溶け込んでいること。その小 さな変化を感じられることが、今の生活の大きな魅力になっている。
山とつながる仕事。

悠花さんの今の暮らしを語るうえで欠かせないのが、ニセコのトイルでの仕事だ。 トイルで働くことの魅力のひとつは、朝の時間を山で過ごせること。
天候や雪の状態を自分の目で確かめ、その日の山と向き合う。滑り終えた ら仕事へ向かう。山で遊ぶことと働くことが、無理なくひとつの暮らしの中につながっている。
「朝の時間って、日中にはない特別なものがあるんですよね」
山へ行くために特別な時間をつくるのではなく、山へ行くことが自然と暮 らしの一部になっている。 海にも山にも近いニセコの環境は、自然の変化を身近に感じられる場所で もある。仕事の前に山へ向かい、自分の滑りと向き合う。そんな日々の積み重ねが、技術を磨くだけでなく、山との関係をより深いものにし ている。
今の悠花さんにとって、働くことと遊ぶことは、別々のものではない。ど ちらも日々の暮らしをつくる、 大切な一部になっている。
高梨さんから学ぶこと。
トイルで働く悠花さんにとって、大きな刺激となっているのが、代表の高梨さんの存在だ。日本のテレマークスキー界を代表するスキーヤーのひとりであり、現在はTesma Ski (テシマスキー) の製作にも取り組んでいる。 悠花さんが特に印象に残っているのは、高梨さんが一年を通してスキーのことを考え続けている姿勢だ。
滑る技術だけではない。身体の使い方や日々のトレーニング、冬以外の時間の過ごし方まで、滑ることにつながるさまざまなことに目を向けている。
長年にわたって滑り続け、現在はスキーをつくることにも向き合う。その 姿からは、滑ることへの探求心が、雪の上だけにとどまらないことが伝 わってくる。
そんな高梨さんの姿を身近で見ることは、悠花さん自身がもっと上手く滑 れるようになりたいと思う気持ちにもつながっている。
高いレベルで滑りと板づくりと向き合い探求し続ける。その姿勢から学ぶ ことは、技術だけではない。ひとつのことを深く追求する面白さや、好き なことと長く向き合い続けることの意味も、日々の関わりの中で感じてい る。
同じ環境で働き、その考え方やものづくりへの姿勢に触れられること。そ んな日常が、悠花さんのこれからの滑りや、山との関わり方を少しずつ広 げている。
山で使い続ける、Brage。

昨シーズン、冬から気温の低い春先にかけて、スキー場や山でほぼ毎日着用していたのが、クレッタルムーセンのBrage 2.0 (Jacket / Salopette) だ。
特に気に入っているのは、生地のタフさと耐久性。ブーツやビンディング、森の中の枝などが当たる場面でも、安心して使えたという。耐摩耗コーティン グされた袖や肘、肩の部分が、使い込むほどに風合いを増していくところも好きな点。
フードのフィット感や、ジッパーの滑らかな操作性も、風雪の強い山で頼りになった。一方、気温が上がる春先には暑さを感じ、着用を控える日もあったという。
クレッタルムーセンの魅力は、機能だけではない。
「軽量化やコンパクトさだけではなく、リペアしながら長く使い続けて、山 で思い切り遊び続けることを前提にしているところが好きです」
自然がつくり出す色彩が好きな悠花さんは、森や雪の風景に溶け込むよう なウェアのカラーにも惹かれている。長く使い続けること、自然の中で思い 切り遊ぶこと。そんな価値観が、彼女自身の暮らしとも重なっている。

心が動いた瞬間を、残す。
悠花さんの暮らしには、山を滑ること以外にも、もうひとつ続けている表現がある。写真だ。
本格的にカメラを手にするようになったのは、周囲の人の影響でカメラを借りたことがきっかけだった。レンズを通して世界を見ることに、少しずつ惹かれていった。

ただ、写真を撮ることそのものが目的というわけではない。 大切なのは、日々の暮らしの中で心が動くこと。そして、その瞬間を気持ち以外のかたちで残しておくことだという。
目の前の景色を美しいと感じても、写真にすると、その感覚をうまく表現 できないことがある。反対に、実際に見ていたときとは違う美しさが、写 真の中に現れることもある。 その違いもまた、写真の面白さなのだ。 山を滑ることも、写真を撮ることも、悠花さんにとっては自分なりの表現 のひとつ。
日々の暮らしの中で心を動かし、その感覚を少しずつ深めていく。技術を 磨くことも、表現を追求することも、続けていく先に、今はまだ見えていない面白さがあるのかもしれない。
遊びの幅を広げていく。
これから、もっと深めていきたいこと。それは、滑る技術を磨くことだ。 昨シーズンには、さまざまな山へ連れて行ってもらう機会があり、その中 で、自分の技術が上がれば、きっともっと面白い世界が見えてくると感じ たという。
技術を磨くことは、単に上手く滑るためだけではない。自分の遊び方を広 げ、これから出会う景色や人との関わりを深めていくためでもある。
高梨さんの姿勢から受ける刺激や、日々の山での経験。そのひとつひとつ が、悠花さんの中にある「もっと滑れるようになりたい」という気持ちを 後押ししている。
自然の楽しみ方は、ひとつではない。滑ることも、写真を撮ることも、季 節の変化を味わうことも。それぞれがつながり、日々の暮らしを少しずつ 面白くしていく。 人が集まる場所をつくる。
もうひとつ、悠花さんの中にある思い。それは、いつか人が集まる場所を つくることだ。 これまでの暮らしの中で出会ってきた人たち。自然の楽しみ方や仕事への向き合い方。それぞれに魅力を感じてきたものを、ひとつの場所でつなげてみたい。
お店があり、人が集まり、それぞれの暮らしや遊びが交わっていく。そん な場所をいつか自分の手でつくれたら、と考えている。
目指しているのは、大きな成果を成し遂げることだけではない。
自然の中で暮らし、自分なりの遊び方を深め、人とのつながりを育ててい く。日々の暮らしそのものを、自分の手で少しずつ面白くしていくこと。 東京を離れ、北海道へ渡った選択。その先で見つけたのは、山を特別な場 所として訪れるのではなく、山とともに日々を重ねていく生き方だった。 山を滑り、写真を撮り、季節の移ろいを感じる。その一つひとつが、これ からの暮らしや表現につながっていく。
どんな場所へ行き、どんな人と出会い、どんな場所をつくっていくのか。
その答えは、きっとこれからの暮らしの中にある。

▼渡辺悠花(わたなべ・ゆうか)
1997年東京都生まれ。現在は北海道・ニセコのスキーショップ「TOYRU」のスタッフ。テレマークスキーの魅力や、自然が身近にある暮ら しの中での気づきを伝える表現活動に取り組む。
Instagram: @yukawatanabe
Toryu HP: http://www.toyru.com/index.html
Text:下村雄太