北海道を拠点にフィールド活動を行うアンバサダーの下村雄太と島崎貴裕がクレッタルムーセンにまつわる人たちを訪ね、彼らが大切にしているフィールドや活動、自然との向き合い方を紹介していきます。
今回訪ねたのは、北海道・厚沢部町で木材の製材工場で働く鈴木暢光(のぶてる)さん。クレッタルムーセンユーザーでもある彼に、木材という自然を相手にする職人としての生き方、その中で扱う道具についての考え方を伺いました。
道具は、自分の手足になるまで。
北海道・道南、広葉樹製材工場で出 会った、一人の職人の哲学。

北海道・道南。厚沢部町へ。
そこには北海道の豊かな森と、広葉樹と向き合いながら仕事を続けてきたひとりの職人がいる。
ブナ、イタヤカエデ、ミズナラ、クリ、クルミ——。
道南と言われる地域にある厚沢部町では北海道にある木々と本州に自生する木々のどちらの木々も山に根を張っている。その厚沢部町に一軒の製材工場がある。丸太が積み重なり、木の香りが漂う工場。
ここで60年以上広葉樹と向き合い続けてきた製材所の三代目、鈴木暢光(のぶてる)さん。一本として同じものがない木を前に、木目を読み、その個性を見極めながら、一本一本に新しい行き先をつくっている。

木を読む仕事
「製材工場って、あまり知られてない仕事なんですよ。」
鈴木さんは笑いながらそう話した。
林業は知っている。家具職人も知っている。大工も知っている。
でも、その間にいる製材工場は、多くの人にとって馴染みがない。
山で伐られた一本の木は、そのまま家具になるわけではない。 どの向きに挽き、どんな用途へ送り出すのか。 そのすべてを決めるのが製材だ。工場から送り出される木材は、家具や建築材だけではない。ウイスキー樽。 漆器。木工品。 そしてスキーやスノーボードのコア材。
「一本一本、全部違うんです。」
道南には40種類以上の広葉樹がある。まっすぐ育った木もあれば、曲がった木もある。同じ樹種でも一本として同じものはない。だから大量生産はできない。一本ずつ木目を読み、その木に最も適した使い道を探していく。
木目は、地形図。
工場の奥で、鈴木さんは丸太の断面を指差した。
「木目って、地形図なんですよ。」
最初は、その意味が分からなかった。
「ここを見れば、10センチ先も20センチ先も分かるんです。」
木目の流れ。 節の位置。 繊維の向き。 どこで挽けば最も強い木材になるのか。 その答えは、木の中に描かれている。
「雪山で等高線を読む人は、木目も読めると思います。」
雪を読むこと。 木を読むこと。どちらも自然を相手にする仕事だった。

ローテクで、シンプルで、丈夫。
クレッタルムーセンを着始めた理由を尋ねると、鈴木さんは少し笑った。
「人と被らなかったんですよ。」
当時、北海道ではほとんど手に入らなかった。 最初の一着は海外から個人輸入した。しかし、今も着続ける理由は別にある。
「止水ジッパーじゃないところが好きなんです。」
軽く、滑りがよく、壊れにくい。便利さではなく、長く使えること。
「僕は便利さより、長持ちすることを選びます。」
その価値観は、40年前の製材機を修理しながら使い続ける仕事とも重なる。70系ランドクルーザーを長く乗り続けることとも重なる。
「ローテクで、シンプルで、丈夫。」
その言葉は、ウェアではなく、生き方そのものを表していた。


ボロボロが、一番かっこいい。
「ボロボロになった道具が、一番かっこいいと思うんですよ。」
バックパックは縫う。ブーツは直す。手袋も補修する。靴下はダーニングで繕う。
「壊れるっていうことは、道具が自分に合わせようとしている途中なんです。」
新品は、まだ服に着られている。何年も使い込み、色褪せ、擦れ、補修を重ねる。ようやく自分の一部になる。 クレッタルムーセンのウェアもそうだった。


道具は、人をつなぐ。
「道具って、自分の価値観を測る物差しなんですよ。」
クレッタルムーセン。 使い込まれたハイラックス。滑り込まれたスノーボード。その人が選ぶ道具には、その人の考え方が表れる。
「これに反応する人とは、大体話が合うんです。」
スキー場ではクレッタルムーセンを着ていたことがきっかけで、言葉が通じなくて も会話が始まったことがある。
道具は人をつなぐ。 価値観を映す、一つのサインでもある。

自然に合わせる。
木を伐ることは、自然を使うことでもある。だからこそ、山から出てきた木を無駄にしたくない。珍しい木にも使い道をつくる。今まで使われなかった樹種にも価値を見出す。
「人間の都合に自然を合わせる時代じゃなくなってきてると思うんです。」
自然を変えるのではなく、自然に合わせる。その姿勢は、雪山を滑ることにもよく似ていた。

リアルであること。
最後に、「鈴木さんにとってかっこいいとは何ですか?」と尋ねた。鈴木さんは少し考えてから答えた。
「無駄がないことですね。」
滑りも。仕事も。道具も。
長年積み重ねた人の所作には、余計な動きがない。だから惹かれる。
「リアルな姿って、そういうことなんじゃないですか。」
高機能やスペックだけではない。時間を重ね、修理を繰り返し、自分の身体に馴染んでいく道具。そして、その道具とともに歩んできた時間そのものだった。帰り際、鈴木さんが静かに話した一言が、今も心に残っている。
「道具は、自分の手足になるまで使うものなんですよ。」
木目を読む。 地形を読む。 道具の声を聞く。そこにあるものを無理に変えるのではなく、その個性を知り、最も自然な形で活かしていく。
鈴木さんの仕事には、自然と人との間にある、静かな対話があった。そして、使い込まれた道具の傷のように、その人の生き方もまた、時間とともに刻まれていく。
「リアルであること。無駄がないこと。」
その言葉が、このインタビューを終えた今も、静かに残っている。
▼鈴木暢光(すずき・のぶてる)
北海道・厚沢部町で、広葉樹専門の製材工場「鈴木木材」を営む 3代目。 製材業、板の展示販売や、生活雑貨・自然食品を扱うギャラリー 「杣人」を運営している。