People | Yuki Inoue / Yukimushi WØRKS

People | Yuki Inoue / Yukimushi WØRKS

北海道を拠点にフィールド活動を行うアンバサダーの下村雄太と島崎貴裕がクレッタルムーセンにまつわる人たちを訪ね、彼らが大切にしているフィールドや活動、自然との向き合い方を紹介していきます。

今回訪ねたのは、北海道・蘭越を拠点に活動する木工職人、井上祐貴さん。彼がつくる作品には、単なる「木工」という言葉では語りきれない背景があります。




 

 


六月、北海道・蘭越町にある井上さんの工房を訪ねた。扉を開けると、これまで生み出してきた作品と、その周りには製作に使われる道具や木材が所狭しと並んでいる。一つひとつに使い込まれた痕跡があり、この場所で積み重ねられてきた時間を物語っていた。



静かな工房に響くのは、木を削る心地よい音だけ。木目や木の特徴を確かめるように指先を添え、わずかな力加減で木を削り出していく。所作には迷いがなく、木と対話するような穏やかな時間が流れていた。

木工作品もまた言葉を超えて人とつながるコミュニケーション


井上さんは、両親の転勤をきっかけに、小・中学生時代をオランダで過ごした。その後、デンマークの高校へ進学し、多様な文化や価値観に触れながら青春時代を送る。

異国での暮らしは、自然との距離の近さや、人々が土地とともに生きる豊かなライフスタイルを肌で感じる貴重な時間となった。その経験は、現在のものづくりの根底に流れる価値観を育み、「その土地だからこそ生まれるもの」に目を向ける原点となっているという。

一度は会社員として働くが、山との出会いをきっかけに人生が大きく変わった。ロングトレイルやバックカントリースノーボード、北欧での旅を通して自然との向き合い方を深め、2013年に北海道・ニセコへ移住。山の仕事へ携わる傍ら木工と出会い、木を伐るところから製材、乾燥、加工までを自ら行う独自のスタイルを築く。

山を歩き、雪を滑り、風を感じる。その体験を木という素材を通して、人へ届ける。井上さんにとってのものづくりだ。

「同じ景色を見て、同じ空気を吸い、同じ価値観を共有できる人が、作品を通して何かを感じ取ってくれたら十分。」

「良いパウダーを滑ったあと、言葉を交わさなくてもハイタッチが生まれるように、木工作品もまた言葉を超えて人とつながる コミュニケーション になれると信じています。」

木工はゴールではなく、入口

何日も工房にこもり制作を続けていると、ある時から思うような形が生まれなくなる。そんな時は必ず山へ向うという。

羊蹄山を登り、仲間と一本のラインを滑る。厳しい環境の中で生きる木々の枝ぶりや、風雪に磨かれた自然の造形を目の前にすると、工房へ戻ったとき、不思議なほど自然に手が動き始める。

「山で見た木々の姿や、その土地の空気を全身で感じたあとにつくる作品は、自然と形が変わるんです。」

それは意識して真似をしているわけではない。北海道という土地で育った木々の力強さや美しさが、自分の中を通り、作品として現れてくる。その感覚こそが、井上さんのものづくりの源。

このジャケットを着ると、どこかへ行きたくなる。


「大学時代に初めて出会ったクレッタルムーセンも、同じ価値観を感じたブランドでした。
北欧を旅し、ロングトレイルを歩く中で、その土地の気候や文化から生まれた道具には理由があることを知ります。機能だけではなく、その土地で生きる人々の思想や哲学が宿っていることに惹かれました。」

このジャケットを着ると、どこかへ行きたくなる。そんな感覚を初めて味わったブランドだったと振り返る。それは今、自分が作品づくりで目指していることにも重なると語ってくれた。


木工は、作品を生み出すことが目的ではない。


日々の食卓で器を手にするたび、木肌に触れるたびに、その奥に広がる森や山の風景を思い出す。道具をきっかけに自然へ目が向き、木が育った土地や、その背景にある物語を知りたくなる。

そんな体験が、手に取った人の暮らしに根付いていくことを井上さんは願っている。

彼にとって木工は、作品を生み出すことが目的ではない。

山で感じた風や雪、森の静けさ、この土地で育まれた木々の生命力を、暮らしの中へとつないでいくための手段であり、人と自然を結び直すための対話なのだ。

ひとつの器から始まる小さな出会いが、人から人へと受け継がれ、やがて森を守り、木を使い、自然とともに生きるという新しい価値観へとつながっていく。

自然から受け取った豊かさを、木を通して次の誰かへ手渡し、その想いがまた次の世代へと受け継がれていく。ものづくりの先にあるのは、一つの作品だけではなく、人と自然が寄り添い続ける文化そのものなのである。

井上さんが目指しているのは、そんな未来だ。






▼井上 祐貴(いのうえ・ゆうき)

木工家・スノーボーダー。1989年大阪生まれ。神戸、オランダ、デンマークで育つ。幼少期から異なる文化や自然環境に触れながら過ごし、その経験は現在のものづくりの原点となっている。

大学卒業後、山との出会いをきっかけに人生が大きく変わる。自然の中で過ごす時間に救われ、北欧と共通する気候や文化、そして世界有数の雪を求め、2013年に北海道・ニセコへ移住。ガイド活動やバックカントリー、ロングトレイルを通して自然との関係を深める一方、木工と出会い、木を伐るところから製材、乾燥、加工までを自ら行うものづくりを始める。

2022年、北海道蘭越町に小さな木工房 「雪蟲WØRKS」 を設立。森を歩き、自ら選んだ木をチェーンソーで伐採し、製材から制作まで一貫して手掛ける。テーブルや家具の製作に加え、生木を削り出す木工旋盤を用いた、木の歪みや生命力を生かした器やランプシェードなども制作している。

「暮らしにその地の木材を!」

▼雪蟲WØRKS
公式 Instagram



Text :下村雄太
Photo:島崎貴裕